NEW KAWAII / FRUITS ZIPPERの歌詞考察

歌詞考察
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NEW KAWAIIの歌詞考察

はじめに

2024年の第66回日本レコード大賞 優秀作品賞を受賞したFRUITS ZIPPER(以下、フルーツジッパー)の「NEW KAWAII」。2023年には最優秀新人賞を受賞していたフルーツジッパーが2024年3月に発表した楽曲で、2024年の歌番組で何度も披露していた。本記事では「NEW KAWAII」の歌詞を考察する。

背景:フルーツジッパーとKAWAII LAB.

本格的に歌詞の考察を始める前に、フルーツジッパーの成り立ちについても理解しておいた方がよいだろう。なぜなら、公式サイトによると

FRUITS ZIPPER

アソビシステムのアイドルプロジェクト「KAWAII LAB.」よりデビュー。グループ名は、「実を結ぶ」という意味を持つFRUITに、「元気を与える」という意味のZIPを組み合わせ、FRUITS ZIPPERと命名された。「原宿から世界へ」をコンセプトに、多様なカルチャーの発信地、個性の集まるファッションの街“原宿”から「NEW KAWAII」を発信していく。

とあるように、フルーツジッパー自体が「NEW KAWAII」を発信していくグループだからである。つまり、彼女たちの存在意義と密接に関わっている楽曲だと言える。

フルーツジッパーはアイドルの中でもひときわ「かわいい」に対して信念をもって活動しているように見える。フルーツジッパーはKAWAII LAB.から誕生したグループである。
KAWAII LAB.とは「原宿から世界へ」をコンセプトとしたアソビシステムによるアイドルプロジェクトである。2022年デビューのFRUITS ZIPPERを皮切りに、CANDY TUNE(2023)、SWEET STEADY(2024)、CUTIE STREET(2024)などの後輩グループも続々デビューしている。この中でも、CUTIE STREETの「かわいいだけじゃだめですか?」は有名である。このように、フルーツジッパーに限らず、KAWAII LAB.のプロジェクト全体として「かわいい」を前面に押し出して活動をしている。

NEW KAWAIIとはかわいいの再定義である

ここから、「NEW KAWAII」の歌詞を考察していく。この曲のメインテーマは、この曲の特徴的な部分でもある以下のセリフ歌詞にすべて詰まっており、最も分かりやすい。

あれかわいい それかわいい っていうけど 
私は大事なお仕事中に 居眠りしちゃう人も
にゅーかわいいと思います! えっそうでもない?
いやでもでも 私はやっぱり好き なんだよなぁ~
                    ―まつかれ(松本かれん)

そんなわけはない。という心のツッコミを抑えて解釈してみよう。つまり、従来の我々が考える「かわいい」には当てはまらないことも、「NEW KAWAII」であるということであり、賛否があろうともまつかれこと松本かれんはにゅーかわいいと思っているのである。

当然、この部分以外にも様々な例が歌詞中に存在する。これは追々説明するとして、曲のメインテーマを理解した上でさらに歌詞の考察を進めていこう。

全肯定ソング?

歌詞を最初から順番に見ていこう。

パンダ的な雰囲気もいいよね (いいよね)
白黒はっきりつけたいような、時代じゃない?
お姫様な扱いもいいよね (もちろんいいよね)
寝起きはしばらくパジャマでいたいけど、仕方がない?

ここは理解しやすい。パンダ的な雰囲気も、お姫様な扱いも、従来のかわいいの概念に基づいて考えても、”良い”からである。また、それ以外の2文も?マークはついているものの、まず白黒はっきりつけたいような時代ではないだろう。この曲全体を通して、NEW KAWAIIについて主張しているものの、それはあくまで「こういうのもいいじゃない」という提案であって、強制するものではない。ちなみに、白黒はその前のパンダともかかっている。

これは1番の歌詞であるが、対応する歌詞が2番にもあるため同時に考えよう。

どっちでもない雰囲気もいいよね? (いいよね)
あかしろはっきり決まらないけどいいじゃない
王子様は未定でもいいよね (もちろんいいよね)
わたしが王様とかでもいいじゃん、がんばります

1番の歌詞と対応がとられているため理解しやすくなる。まず1番の歌詞ではパンダ的な雰囲気が良いと言っていたが、どっちでもない雰囲気も良いと肯定している。次にあかしろはっきり決まらなくても良いと言っている。1番では白黒を漢字で書いていたのに、あえてひらがなで「あかしろ」になっている。これは自然に考えると、赤白と紅白を両方かけているのだろう。更に紅白だとすると、男女を意味する。つまり、ジェンダーの多様性についても受け入れているということである。そのことを支持するように、続く歌詞では1番ではお姫様な扱いが良いと言っていたのに対して、2番では王子様は未定でも良いし、なんなら私が王様”とか”でも良いと言っている。王様でも、召使いでも、もうなんでもアリである。

1番の歌詞に立ち返ると、このアバウトさから考えて、明らかに白黒はっきりつけたいような時代じゃないという主張であろう。そして、最後の寝起きはパジャマでいたいけど、仕方がない?についても、
白黒つけたい時代じゃない?→時代じゃない。との類推で、仕方がない?→仕方がない。の対応でよいはずである。1番ではまだNEW KAWAIIに対して自信がないのか、疑問形を用いているが2番との対応をとることで主張したい内容を理解できる。

ここまでの結果をまとめると、以下の通りである。明らかに、すべて肯定している。

パンダ的な雰囲気もいいよね良い
白黒はっきりつけたいような、時代じゃない?白黒はっきりつけたいような時代ではない
お姫様な扱いもいいよねもちろん良い
寝起きはしばらくパジャマでいたいけど、仕方がない?仕方がない
どっちでもない雰囲気もいいよね?良い
あかしろはっきり決まらないけどいいじゃない赤白、紅白、ジェンダーは決まらなくても良い
王子様は未定でもいいよねもちろん良い
わたしが王様とかでもいいじゃん私が王様でも、王子様でも、召使いでも良い

以上の概念が「NEW KAWAII」である。つまり、従来通りのかわいいも含んだ拡張的な概念であると考えられる。

きゅーとではないもの

さて、ここまではなんでもいいじゃん!とすべて肯定的であった。しかし、この曲中ではきゅーとではないものも例が挙げられている。ここでも1番と2番の歌詞を対応させて考える。

ぜったいぜったいキャラじゃないって
スタンプで返事したくなるような、やばいお誘い
投票して決めるそれって
ぜんぜんきゅーとじゃないじゃん (ないじゃん)
わたしこのままでもいいじゃん (いいじゃん)
愛、未来、おかし、メイク、友達、笑顔、睡眠、ほらぜんぶ大切だね

ぜったいぜったいありえないって
スタンスもくずしたくなるような、グレートな世界
多数決で決めるなんて
ぜんぜんきゅーとじゃないじゃん (ないじゃん)
わたし少数派でいいじゃん (いいじゃん)
愛、別の愛、また別の愛、それ以外の愛、ほらぜんぶ大切だね

まず最初の2文は、歌割では1人分の担当範囲であるが、どこが形容されているのか非常に分かりづらい。そこで、1番と2番の歌詞の文法的構造は同じであると仮定して考える。全体を通して、この仮定で考えても矛盾は生じないため、問題ないはずである。
まず難しい点が、ここの内容はかわいいに関してプラス要素なのかマイナス要素なのかである。やばいお誘いはマイナス要素っぽいが、グレートな世界はプラス要素っぽいため混乱してしまう。そしてもう1つ難しいのが、ぜったいぜったいキャラじゃないって(ありえないって)の部分が誰視点のセリフなのかがはっきりしない点である。

思考過程を省略して結果を先に述べると、「ぜったいぜったい~やばいお誘い」と「ぜったいぜったい~グレートな世界」はともにマイナス要素である。また、1文目は2文目に対する彼女たちの反応であると考えられる。ここからは私の想像になるが、具体例を出してこの意味を解説する。まず、1番の歌詞のやばいお誘いとは、ナンパのようなものではなく、アイドルに対する”大人”からの「こういうキャラで売り出さない?」という提案のようなものだと考えた。アイドルは、おバカキャラや、○○キャラとして売り出すことはよくある。しかし、NEW KAWAIIとは自分たちのやりたいことをやるので、”大人”の事情によって自分のやりたいことを曲げるのはかわいくないのである。このようなスタンプで返事したくなるような(話を逸らしたくなるような)やばいお誘いに対して、ぜったいぜったい(そんな)キャラじゃないって!という反応なのではないだろうか。同様に2番の歌詞も解釈できる。グレートな世界とは、一見ポジティブな言葉だが、おそらく皮肉として用いられている。1番とも通じるように、自分たちのやりたいことをやるのがNEW KAWAIIである。つまり、自分のスタンスをくずしたくなるような、”大人”の誘惑(=グレートな世界)はかわいくないのである。そして、この誘惑に対する反応が、ぜったいぜったいありえないって!という具合である。考えてみれば、グッドな世界でもキュートな世界でもなく、グレートな世界なのだから、たしかに違和感のある表現であった。

さて、次に続く投票と多数決についてだが、理解はしやすい。言葉通り、投票や多数決によって他人に決められるものは全然かわいくないのである。これまでのNEW KAWAIIの概念から考えれば、至極当然の具体例である。しかし、アイドルがこの歌詞を歌うことはもっと強い意味を持ってしまうことにも注意したい。投票といえば、まず浮かぶのが選挙であり、民主政治である。さすがに、政治体制批判ではないと思うが、かわいくはないそうである。そして、アイドルだからこそ関係するのが、AKB選抜総選挙に代表されるような人気投票である。特に、1番の歌詞で投票で決めることに対して、全然きゅーとじゃない!と歌っているのが、元HKT48のあまねき(月足天音)である。彼女が歌うことで、その意味が強調されてしまう点は注意したい。

あくまで、上記の内容をこの曲で全否定しているわけではない。NEW KAWAIIの概念でいうと、かわいくないという主張である。繰り返しになるが、他人が決めるのではなく、自分のやりたいことをやるのがNEW KAWAIIなのである。冒頭で紹介したNEW KAWAIIの代表例でもある「大事なお仕事中に居眠りしてしまう人」も、自分の欲求に正直だからこそかわいかったのだから。

NEW KAWAIIにおいて大切なもの

さて、ここからは1番と2番で歌詞の意味が分離する。まずは1番の続きから。

愛、未来、おかし、メイク、友達、笑顔、睡眠、ほらぜんぶ大切だね
さ、アップデートしよ?

これはNEW KAWAIIにおいて大切なものが列挙されている。自分の欲求の列挙である。

大好きな人が、にゅーかわいかった (にゅー)
それがほんの少しでも、わたしのせいならいいな
おしもおされぬ、愛が見つかる
嬉しくなりすぎる新しさです

ここも素直に受け取ってよいだろう。自分の大好きな人がにゅーかわいかったということは、その”相手”が好きなように生きていたということである。その原因の一部でも、私であったらいいなという謙虚な願望である。「おしもおされぬ」、とは正確な日本語なら「おしもおされもせぬ」だが、いずれにせよビクともしないような確固たる愛が見つかるという意味だろう。”相手”もにゅーかわいく自立しているからこそ、確固たる”私”から”相手”への愛が見つかるのである。これが嬉しくなりすぎる新しいNEW KAWAIIだからこその現象である。

ここで”相手”とは、特に何も情報がないため誰でもよいはずである。家族、友達、恋人、ファンなどなど解釈は自由である。

次に2番の続きを見てみよう。

愛、別の愛、また別の愛、それ以外の愛、ほらぜんぶ大切だね
ねえ、アップデートしよ?

ここでも大切なものを列挙しているが、すべて愛である。しかも、その愛とは少なくとも4種類ある。最後にそれ以外の愛とひとくくりしているため、4つに限らずすべての愛と考えてよいだろう。これは先に挙げた、家族、友達、恋人、ファンなどへの愛すべてである。

大好きな人が、にゅーかわいかった (にゅー)
それがほんの少しでも、自分のためならいいな
誰かが決めたものでもなくて
そうしたいからする、過ごし方です

ここでも大好きな人がにゅーかわいかったのだが、今度はそれが自分のためだったらいいなと歌っている。それに続く2文も、自分の過ごしたいように自由に過ごすことを肯定している。ここで表しているのは、自分への愛、そして自由だろう。

その上で、

Update, updateしたデートで (中略) 全員参加で
A new world, a new world そんなワードで
大事なことを言い合いましょう
さあかわいいも言い合いましょう?

ということである。これはもはや説明不要だろう。2番では、

Update, updateしたデートで (中略) 自由参加で
A new world, a new world そんなワードで
大事な人を褒め合いましょう

1番と若干異なるが、注目すべきは「全員参加」が「自由参加」に変わった点だろう。全員に参加を呼びかけて誘ったが、もちろん各自のやりたいこと優先なので自由参加でよいのである。そして、大事なことを言いあって、かわいいを言いあって、褒め合おうという提案をしている。

この2番の歌詞の後に、冒頭に紹介したまつかれのセリフが入り、もう一度サビが繰り返される。そこも歌詞通り解釈できるため、これ以上は解説しない。ただし、このまつかれのセリフ歌詞は、当初にゅーかわいいと思うものをメンバー全員が持ち寄ったそうである。作詞者であるヤマモトショウさんが作ったオリジナル歌詞では、「食べ放題で全種類食べちゃう人も にゅーかわいいと思います」だったそうである。たしかに、これも自分の欲求に素直であり、NEW KAWAIIの定義通りである。その中で最もわかりやすくNEW KAWAIIを体現したまつかれの歌詞が採用されたのだろう。これは、歌い手のフルーツジッパーもNEW KAWAIIを理解した上で歌っているということを示すエピソードである。

さいごに

これまでは歌詞を考察したため、この楽曲の冒頭部分、

La-la-la-la-la-la-la-la
Wow-wow-wow-wow
Wow-wow-wow-wow

については何も触れなかった。Wow-wow-wow-wowの部分は、モーニング娘のLoveマシーンが思い出される。
Loveマシーンが発表された1999年といえば、平成の不況真っ只中。その時代に、日本を明るくする楽曲として、このLoveマシーンは日本国民に広く愛され、モーニング娘にとっても最も売れた楽曲となった。

このNEW KAWAIIでも、最初にLa-la-la-la-la-la-la-laで令和の新しさも出しつつ、Wow-wow-wow-wowを入れることで、この不景気な令和の日本も明るくなる未来を願って作られたのかもしれない。そんな意味も込められているのではなかろうか。。。

補足

本文中では省いた細かい点について、補足としてまとめた。

補足1 「ぜったいぜったいキャラじゃないって」の解釈の根拠

ぜったいぜったいキャラじゃないって

本文で取り扱ったこの歌詞。これは彼女たちの反応であり、彼女たちのセリフであると解説した。曲を聴いたときの第一印象では、「ぜったいぜったいキャラじゃない?って」だと思った。つまり、他人からそれは「キャラじゃない?」って指摘されているような状況である。意味で考えてもこの解釈だといろいろ不都合が生じるのだが、私はこの曲の文法的に?マークがついていないものはそのまま解釈すべきだと考えている。この曲中で?が使われている部分はいくつかある。1番の冒頭の歌詞では、まだ提案段階であってNEW KAWAIIに自信がないのか、疑問形にして同意を求めていた。つまり、?マークを使うべきところでは使っているため、ここで?マークが入っていないということは、そのまま受け取るべきだと考える。あとはそれを受け入れて解釈を試みると、本文中で解説したような具体例で理解できたということである。

補足2 わたしの”せい”ならいいな→わたしの”おかげ”ならいいな?

1番のサビで、「わたしのせいならいいな」の歌詞で、せいではなくておかげが正しいのではという意見をSNSでよく見かけた。ここはニュアンスの問題だが、やはり「わたしのせい」の方がしっくりくる。なぜなら、この楽曲はNEW KAWAIIの概念を主張をして、皆に提案しているが強制はしていないからである。その謙虚な姿勢はいたるところから伝わってくる。そのため、誰かがNEW KAWAIIであっても、それは「わたしのおかげだね」ということにはならない。実際、その該当歌詞の直前で、「それがほんの少しでも」と言っていることから、非常に謙虚である。だからこそ、本文中でもこの歌詞は、謙虚な願望を表していると解説した。

意味はともかくとして、文法的にいかがかというクレームには反対である。歌詞では、メロディーに乗せる都合上、必ずしも正しい日本語を使う必要もないので、文法的な誤りは許容できると考えている。それを言うなら、その後のおしもおされぬも、おしもおされもせぬにすべきであることになる。

補足3 NEW KAWAII教?

サビの歌詞を見ると、NEW KAWAII人は周りの人間も自分自身も救われるという内容であり、宗教的である。元々、フルーツジッパーはNEW KAWAIIを布教していくグループなのだから、ある意味自然ではある。

さあ、アップデートしよ?

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